スウェーデンより税負担が重いのに、老後の心配は尽きない…日本人が死ぬまで貯金を続けてしまう根本原因

スウェーデンより税負担が重いのに、老後の心配は尽きない…日本人が死ぬまで貯金を続けてしまう根本原因
5/16(火) 10:17配信


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プレジデントオンライン
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Dilok Klaisataporn

日本の国民負担率はほぼ5割で推移している。ジャーナリストの山田順さんは「国の財政赤字を加えた本当の国民負担率は61.1%に上り、スウェーデンより高い。しかし、複雑な税金制度や原生徴収制度などのせいで、国民が自身の税負担に気づきにくくなっている」という――。

【図表を見る】国民負担率の国際比較

 ※本稿は、山田順『日本経済の壁』(MdN新書)の一部を再編集したものです。

■現代に復活した江戸時代の「五公五民」

 2023年2月21日、財務省が2022年度の「国民負担率」が47.5%になる見込みだと発表すると、SNSは大騒ぎになった。

 47.5%はほぼ5割。つまり、所得の半分を国に持っていかれることに、悲鳴と怨嗟(えんさ)の声が上がったのである。そして、ツイッターでは「五公五民」がトレンド入りした。

 「五公五民」は、江戸時代の年貢率を表した言葉で、年貢米の半分を領主が取るので、残りの半分しか農民の手元に残らないことを指す。江戸時代初期には「四公六民」だったが、八代将軍の徳川吉宗によって引き上げられた。これにより、大飢饉に見舞われた享保(きょうほう)から天明年間には、「百姓一揆」が続発した。

 SNSの投稿では、《令和の時代に五公五民。江戸時代とどっちがマシか》《五公五民だと、一揆起こさないとあかんレベル》《防衛費倍増になると、六公四民か七公三民になりそう》などが、一気に拡散した。

■日本の国民負担率は本当に高いのか

 「国民負担率」というのは、国全体の収入である「国民所得」(NI:National Income)に対して、税金や健康保険料などの社会保険負担が、どれくらいの比率になっているかを表した数字だ。国民負担率は、税金や社会保障負担の合計を、個人や企業が稼いだ国民所得で割ることで求められる。

 国民負担率は財務省が毎年公表しているもので、ここ数年ほぼ同じ率であり、2022年になって「五公五民」になったわけではない。

 それでは、日本の国民負担率47.5%(実績見込み)は、国際的に見て高いのだろうか?  財務省のHPに国民負担率の国際比較のグラフと表がある(図表1参照)。

 図表1には、アメリカ32.4%、英国46.5%、ドイツ54.9%、スウェーデン56.4%、フランス67.1%の5カ国しか示されていないので、以下、主要国をもう少し加えてみる。韓国40.1%、スペイン47.3%、イタリア60.0%、ノルウェー54.0%、フィンランド61.5%、オランダ54.4%、オーストラリア34.5%、カナダ47.5%。

 中国、東南アジア諸国、インドに関しては、財務省HPに統計がない。また、各国とも税制も社会保障システムも違うので断じることはできないが、一見では日本はけっして高いとは言えない。とくに、韓国やアメリカなどよりは高いが、欧州諸国(とくに北欧諸国)に比べたら低いのだから、怨嗟の声が上がるのはおかしいと思える。


■住民サービスが国民負担に見合っていない

 しかし、これは大きな間違いで、日本は「五公五民」よりひどい重税国家なのである。

 なぜなら、国民負担率がいくら高かろうと、それに見合った住民サービスがあれば、重税であっても重税感はなくなる。つまり、社会保障が充実した高福祉国家なら、一概に重税国家とは言えない。その意味で、北欧の国々、スウェーデンノルウェーフィンランドなどは、重税国家ではあっても国民の不満は少ない。

 たとえば、北欧諸国では教育は大学まで無償である。ところが、日本では、国立大学ですら高額の入学金と授業料を取る。あまつさえ、学生ローンまで組ませて学費を先払いさせている。教育無償化は議論されているだけで実現していない。これで47.5%は、やはり高いと言わざるをえない。

 さらに、もっとカラクリがある。国民負担率というのは日本独特のもので、諸外国はGDP比で負担率を出している。ところが、日本は間接税を省いた国民所得比で算出している。つまり、間接税率の高い欧州諸国は、国民負担率が日本より高めに出てしまうのである。

■国の借金を加えると、「六公四民」に

 さらにもう一つ、カラクリと言うか、当然と言うか、本当の国民負担率は、国の借金(財政赤字)も加えて計算しなければならない。なぜなら、国の借金である国債は、将来の税金で償還されるべきものだからだ。それで、財政赤字を加えて算出した国民負担率を「潜在的国民負担率」としている。

 さきほど紹介した図表1には、各国の潜在的国民負担率が示されているが、それで見ると日本はスウェーデンより高い。財務省の発表には2023年度の国民負担率の見通しがあり、それによると、2022年度から0.7ポイント下がって46.8%となるが、潜在的国民負担率はなんと3.7ポイント上がって61.1%である。

 日本は、世界でも類を見ない「高負担低福祉国家」なのである。

 しかも、国債発行には際限がなく、財政赤字は拡大する一方になっている。このまま行くと、さらに潜在的国民負担率は上がる。それにしても、本来GDP比でいいものをそうせず、GDP比にしたものにはわざわざ「潜在的」という名目をつけている。これはゴマカシではないだろうか? 

 日本経済が長期低迷を続けている一つの原因に、この国民負担率の高さがある。国民負担率が1%上昇すれば、成長率が0.3%低下するという調査研究レポートがある。

 すでに潜在的国民負担率は「六公四民」になっている。所得の6割も国に取られてしまうのだから、若者は結婚できるわけがないし、まして少子化など改善できるわけがない。


■重税国家だと気づかせない巧妙な仕掛け

 国民負担率の統計が始まったのは、1970年。以来、財務省は毎年発表を続けてきたが、まさか、50%に迫るなどとは夢にも思わなかっただろう。なにしろ、1970年は24.3%に過ぎなかったからだ。それが、今世紀に入ってから増え続け、2013年度に40%を超えてしまった。

 国民負担率を減らすには、分子となる税金や社会保障の負担を減らすか、分母となる国民所得を上げるしかない。岸田首相は「新しい資本主義」を標榜し、「令和版所得倍増計画」を進めると言ってきた。しかし、具体的になにもしていない。

 こんな状況では、諸外国なら抗議デモが起こり、政権は倒れているだろう。実際、2022年10月、英国はそうなった。しかし、日本ではデモはおろか、抗議の声すらわずかだ。なぜなのだろうか? 

 かつて私は『隠れ増税』(青春新書、2017)という本を執筆したが、そのなかで、次の4点を挙げた。

 (1)税金が複雑かつ種類が多すぎること
(2)見えない税金があること
(3)公共料金を税金と考えていないこと
(4)源泉徴収制度があること

源泉徴収制度で税金の総額が分からない

 (1)から説明すると、日本の税金は、国や自治体に納める税金(国税地方税)だけで、50種類以上あり、これを全部知っているのは専門家しかいない。

 (2)の見えない税金は、「たばこ税」「酒税」「自動車関連税」(自動車所得税自動車重量税軽油取引税など)「入湯税」「ゴルフ場利用税」「一時所得税」などで、はなから価格・サービスに上乗せされているので気づかない。

 (3)の公共料金は税金の一種と考えるべきで、水道料金、電気料金のほかにNHKの受信料まである。

 (4)の源泉徴収制度というのは、基本的な税金である「所得税」や「住民税」が、給与所得者の場合、毎月給与から天引きされてしまうこと。そのため、いくら税金を取られているのか、それが重いかどうかわからなくされている。また、この制度は徴収を会社がするので、事実上、会社が税務署の出先機関になっている。

 源泉徴収制度は、アメリカ、英国、ドイツなどにもあるが、日本とは違っていて、最終的に自身で税を確かめて確定申告することになっている。



所得税+住民税で55%というボッタクリ

 日本の税金には、このようなカラクリがあるうえ、税金そのものも高い。たとえば、所得税最高税率で見ていくと、日本は世界でもっとも高いほうの部類に入る。日本の最高税率は45%であり、住民税10%と合わせるとなんと55%にもなる。

 次に、主要国の最高税率を高い順に記してみる。

 スペイン52%、英国50%、ドイツ、フランス、オーストラリア45%、アメリカ35%、カナダ29%――。どうだろうか。世界には、オフショアもあり、シンガポールは20%、香港は17%と低く、ケイマン諸島所得税そのものがない。

 [図表2]が、日本の所得税の税率である。所得が高い人ほど税率が高くなる「超過累進課税制度」が取られていて、1800万円を超えると40%、4000万円を超えると45%が課せられ、これに住民税10%が加わる。

 単純な話、日本のサラリーマンは年収1800万円以下までにしておいたほうがいい。それ以上稼ぐとどんどん取り上げますと、国は言っているわけだ。

相続税は「二重課税」「三重課税」に当たる

 相続税もボッタクリである。相続税にも所得税と同じように金額に応じて課税するという制度があり、これを動かすことで簡単に増税できる。

 実際、相続税は2015年年1月1日から税率が引き上げられ、最高税率が55%になった。また、基礎控除額の改正も行われ、それまで5000万円だった定額控除が3000万円と、なんと4割も引き下げられた。控除額の引き下げは増税である。

 じつは、相続税はもともと、その課税根拠が希薄な税金だ。なぜなら、私たちは所得があればその一部を所得税というかたちで国に納めている。そして、残った所得で資産を形成する。

 たとえば土地・建物を購入すれば、そのときに不動産収得税などを払い、さらに、毎年、固定資産税を納める。株や債券に投資しても、それから得られた利益に対してはキャピタルゲイン税を納めている。

 こうしてさまざまな税金を払ったうえに残った資産に、所有者が死んだという理由だけで課税するのが相続税であり、これは、明らかな「二重課税」「三重課税」ではなかろうか。


■海外のように相続税を廃止すれば、問題は解決

 いまや多くの国で相続税は廃止されている。カナダとオーストラリアは1970年代に廃止。1992年にニュージーランドが続き、高福祉高負担で知られるスウェーデンも2004年に相続税を廃止した。また、イタリア、インド、中国、タイ、マレーシア、インドネシアなどは、そもそも相続税がない。

 相続税があり、それが高率だということは、世代を超えて富が蓄積されないということを意味する。美智子上皇后の実家の正田邸は、相続税のために物納されて解体されてしまった。街の景観まで変わってしまうのだ。

 相続税は、結局、国家にだけ富が集中し、民間は疲弊するという税金である。

 もし、相続税がなければ、日本が直面している多くの問題は解決する可能性がある。たとえば、現在多くの中小企業が悩んでいる「事業継承」がスムーズに行えるようになる。また、解体が進む家族もその絆が深まることで元に戻る。さらに、少子化老老介護などの問題も解決に向かうかもしれない。

■税金の支払い手がいなくなる未来

 2022年に生まれた赤ちゃんの数(出生数)が、前年比5.1%減の79万9728人で、1899年の統計開始後初めて80万人を下回ったことが、各方面に衝撃を与えた。

 この少子化のペースは、政府機関の推計より10年ほど早い。この傾向が続けば、年金をはじめとする社会保障制度や国家財政は予想以上に逼迫する。

 出生数の下落率は、2015年までの10年間は毎年平均1%ほどだったが、2016年以降は3%超に加速化した。出生数が100万人を割ったのは2016年だが、それからわずか6年で2割減の80万人を下回ってしまった。

 こうなると、生産年齢人口も加速度的に減少する。それは、税金を払う納税者が加速度的に減少することを意味する。[図表3]は、1950年を起点とした日本の人口の推移で、2022年より先は推計だが、この推計はいまや成り立たなくなった。推計より速いスピードで少子化が進んでいるからだ。

 このグラフを眺めて、日本の将来を想像すると、絶望的になる。


■重税は家族を食い殺す虎よりも恐ろしい

 中国の諺に、「苛政は虎よりも猛(もう)なり」というのがある。これは、重税を課す過酷な政治は人を食う虎よりも恐ろしいということだ。

 泰山の近くを通りかかった孔子は、墓に向かって泣いている婦人を見つけ、弟子の子貢を使わせて、なぜ泣いているのかと尋ねさせた。その婦人はこう言った。

 「私の舅は昔、虎に殺されました。夫も虎に殺されました。息子も虎に殺されました」

 それで、孔子が婦人に「どうしてこの地を離れないのか」と訊くと、婦人はこう答えた。

 「この地には重税がないのです」

 この諺が意味するところを私見で解釈すれば、重税国家から人は逃げ出すということだろう。

■意のある若者は重税国家から出て行く

 すでに、「重税ニッポン」に嫌気がさして、多くの富裕層や有能なビジネスマン、起業家たちが国を出ている。有為な若者たちも国を出ている。とくに本気でスタートアップを目指す若者は、海外を目指す。昔の若者は英語が苦手だったが、いまの若者はそうではない。また、ITテクノロジーを使えば、語学の壁は乗り越えられる。

 シンガポールなどのタックスヘイブンは、日本のような官僚統制国家では「悪」とされている。しかし、本当は、重税国家の理不尽な徴税から逃れるための「自由な地」とも言える。

 このまま日本が重税国家路線を突き進めば、タックスヘイブンばかりか、能力を認められる国、高い収入が得られる国に、多くの国民が国を出ていくだろう。

 とくに、将来に希望が持てなくなった若者たちが、本気でこの国を出たら、日本はどうなるのだろうか。



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山田 順(やまだ・じゅん)
ジャーナリスト、作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。立教大学文学部卒業後、光文社に入社。『女性自身』編集部、『カッパブックス』編集部を経て、2002年、『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長を務める。2010年より、作家、ジャーナリストとして活動中。主な著書に、『出版大崩壊』(文春新書)、『資産フライト』(文春新書)、『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP研究所)、『永久属国論』(さくら舎)などがある。翻訳書には『ロシアン・ゴットファーザー』(リム出版)がある。近著に『コ